夢の続きは花園で
大島幹雄
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三軒茶屋の八幡神社で初めて水族館を見たのは、いまから三年ほど前になるのだろうか。都会の真中にこんもりした木立のある神社には、霊気が漂っていた。この霊気を水族館の芝居は揺さぶっていた。前芝居が演じられた木立のなかに、役者たちがたたき起こした霊気は、飛び散り、そこから濃厚な芸能空間が生れていた。これこそまさに自分が求めていた芸能の世界だった。

このあと早く次の作品がみたいと思い続け、翌年の公演を楽しみにしていたのだが、住民たちからの反対もあり、ここではできなくなったという。今度はいつ見れるのか、ジリジリしていたら、なんと三重の芸濃町でやるという。ちょっと遠いがこれは行かずばなるまい、ということで芸能に縁がありそうな名前のこの芸濃町に馳せ参じたのは、今年のゴールデンウィークが明けた5月中旬、青葉が繁るころだった。

昔は宿場町だったのだろう、きっと旅人たちで賑わい、裕福な町だったのではないだろうか?三軒茶屋のときはほとんどのお客さんが水族館劇場ファンだったと思うが、今回のお客さんの^ほとんどは町の住民。辻のあちこちからみんなが集まってくる、この感じがたまらなかった。祭りにかけられる村芝居のような雰囲気がおのずと漂ってくる。どこからか祭り囃子が聞こえてくるようだった。

前芝居はそんな広くないところに建てられた荒れ果てた芝居小屋の跡地のようなところで演じられた。三軒茶屋のときとはずいぶん役者さんも変わったようだ。若い人が増えたのかな・・・圧巻は綱渡りならぬ、竹渡り。渡った距離は短かいが、結構な高さがある、たいしたものである。

敷地はそう広くはないと思うのだが、しっかりとした舞台がつくられ、池もあるし、生きた鴨もいた。さらに舞台奥は野外に通じ、飛行機らしいものも空に浮かんでいる。このセットを見るだけでわくわくしてくる。しかも今回は芸濃町でやるということで三重県出身の江戸川乱歩と昔つくられた人口池の話が骨子となっている。パノラマ奇譚に龍神池と、桃山ワールドにはふさわしい設定である。そしてここに黒い翁の大黒天やら、岡田嘉子のなれのはてのような女優、メイエルホリドが演じたピエロを思い起こさせる道化、傀儡の血をひく少女、池を守る土佐源氏など、まさに自分の世界と近いところにある桃山ワールドのエッセンスが放り込まれたカオスの世界が立ち現れる。なによりも感心したのは池に沈む馬が龍になるという神話をとりいれていたこと、前半最後、この龍が出現するところはまさに圧巻であった。水族館劇場のもつ見世物的快感をぞんぶんに見せつけてくれた舞台であった。

最初に見た『嘆きの天使』のように、さあこれから物語が渦のようにさらに回転していくのだろうと思ったところで、幕となった。崩しもあり、飛行機も飛ぶという見せ場としては申し分ないエンディングではあったが、やはりちょっともの足りなかった。  それからしばらくして、小屋を建てる場所を探し、放浪していた水族館が、都内に新たな場所を見つけたという朗報が飛び込んだ。しかもなんとそこはテント劇場のメッカ新宿・花園神社というではないか。花園神社と言えば唐十郎の赤テントということになるのだろうが、自分にとってここは見世物小屋が立つ場所である。代々見世物小屋が立つたびに生れた芸能の精霊たちが棲みついているところである。まさに芸濃町のあの池から生まれた龍神さまが、帰ってくるところにしたら格好の場所である。ここに水族館のあの池付きテント小屋が立つのかと思うとぞくぞくしてくる。

「この世のような夢」は、テント小屋が立ち、まずは芸能の精霊たちをたたきおこしてから、ゆっくりとその続きがはじまるのだろう。